30年66兆円で出生率1.15。少子化対策の「致命的なズレ」とは何か【前編】

少子化対策予算30年で66兆円超と2024年出生率1.15を比較した図 番外編・考察

「こんなにお金を使っているのに、なぜ子どもは増えないのか」
「こども家庭庁の予算は、本当に効果があるのか」
「税金の使い方が、根本的にズレているんじゃないか」

SNSでも、こうした声を見かけることが増えました。
正直、気になります。

ただ、この話題は感情だけで語ると危険です。
子育て支援そのものへの批判になったり、支援を必要としている家庭に怒りが向いたりすると、本質からズレてしまいます。

この記事で考えたいのは、「子育て支援が必要かどうか」ではありません。

結論から言えば、少子化対策のズレは、「子どもが生まれた後」の支援に偏りすぎて、「結婚・出産にたどり着く前の不安」を十分に解消できていない点にあるのではないか、ということです。

つまり問題は、金額だけではありません。
政策の射程がズレていないか。

この記事では、数字と構造を中心に整理します。


30年で66兆円。それでも出生率は下がり続けた

1994年から2024年までの日本の合計特殊出生率の推移グラフ

まず、基本的な数字を並べます。

  • 30年間の少子化対策予算:累計66兆円超
  • 2025年度のこども家庭庁予算:約7.3兆円
  • 合計特殊出生率:1994年 1.50 → 2024年 1.15

2024年の合計特殊出生率は1.15で、前年の1.20から低下しています。出生数も68万6061人となり、前年の72万7288人から減少しました。 

人口を維持するために必要とされる水準は、おおむね2.07前後とされています。
日本はそこから大きく離れたままです。

なお、「30年間66兆円超」は、こども家庭庁単独の予算ではありません。
政府全体の少子化対策関連予算の累計として報じられている数字です。 

こども家庭庁は2023年に発足した組織であり、この記事では近年の少子化対策予算の象徴として、2025年度予算約7.3兆円を取り上げています。こども家庭庁の令和7年度予算案のポイントでも、総額は約7.3兆円とされています。 

もちろん、これらの政策が一切効果がなかったとは言いません。
保育所の整備、児童手当、育休制度、出産・子育て支援。
これらは、現在子育てをしている家庭の負担を一定程度支えてきたはずです。

ただ、少なくとも言えることが一つあります。

これまでの方向性では、出生率を反転させるほどの効果は出ていない。

数字を見る限り、そう考えざるを得ません。


お金を使っているのに、なぜ子どもは増えないのか

少子化対策の多くは、子育て世帯への支援が中心です。

児童手当の拡充。
保育所の整備。
育休取得の推進。
教育費負担の軽減。
出産・子育て給付金。

どれも必要な政策です。

しかし、一度立ち止まって考える必要があります。

少子化の原因は、本当に「子育て世帯への支援不足」だけなのでしょうか。

少子化には、もっと手前の問題があります。

そもそも結婚する人が減っている。
結婚しても、子どもを持たない夫婦が増えている。
1人産んでも、2人目・3人目を諦める家庭が増えている。

それなのに、対策の多くが、すでに結婚していて、すでに子どもがいる世帯に向けられているとしたら。

政策の射程は、最初からズレている可能性があります。


本当の問題は「子育て支援」の前にある

少子化の原因が子育て支援不足だけではなく未婚化や低所得など複数あることを示す図

少子化は、子どもが生まれた後だけの問題ではありません。
多くの人が、子どもが生まれる前の段階で止まっています。

結婚に踏み切れない。
住宅費が重い。
教育費が不安。
老後の不安がある。
仕事と家庭の両立に自信が持てない。
男性の長時間労働が変わらない。
女性への家事育児負担の偏りも残っている。

こうした土台の問題が解決されないまま、
「子どもが生まれたら支援します」
と言われても、そこまでたどり着けない人が増えています。

政策が支援している地点と、人々が不安を感じている地点がズレている。

ここに、少子化対策の大きな問題があるのではないでしょうか。


少子化は「全員に平等に」起きているわけではない

少子化は社会全体で進んでいますが、全員に同じように起きているわけではありません。

研究や各種分析では、高所得層でも子どもの数は減少している一方で、低所得層ではより大きな落ち込みが見られることが指摘されています。
所得階層による子どもの数の格差が、広がっている可能性があります。

ここに、皮肉な構造があります。

現金給付や子育て支援を拡充しても、それが「すでに結婚・出産の段階にいる層」に届きやすい設計になっている場合、結婚や出産の入口に立てない層との格差がさらに広がってしまう可能性があります。

もちろん、子育て支援をやめろという話ではありません。
今、子育てをしている家庭を支えることは大切です。

ただし、支援が必要であることと、支援の設計が正しいことは別です。

支援の設計が、意図せず格差を広げていないか。
本当に、出生率を押し上げる地点に予算が届いているのか。

この問いは、一度立てる価値があると思います。


問題は金額ではなく「射程」にある

少子化対策の問題は、金額の大きさだけではありません。
本当に見るべきなのは、「いくら使ったか」だけではありません。

どこに使ったのか。
誰に届いたのか。
どの段階を支えたのか。
出生率を押し上げる構造に、本当に届いていたのか。

ここを見なければ、同じことが繰り返されます。

お金を増やす。
制度を増やす。
支援メニューを増やす。
でも、出生率は上がらない。

そのとき必要なのは、さらに予算を積むことだけではなく、なぜ効果が出なかったのかを検証することです。

これは少子化対策だけの問題ではありません。

日本では、巨額の予算を使っても結果が出なかったとき、
「なぜ失敗したのか」より先に、
「さらに対策が必要だ」
という話になりがちです。

でも、本来はそこで立ち止まるべきです。

少子化対策の本当の問題は、金額ではなく、政策の射程にあるのかもしれません。


まとめ:少子化対策は「生まれた後」だけでは足りない

少子化対策は必要です。
子育て支援も必要です。
今、子どもを育てている家庭への支援を軽く見てはいけません。

ただ、それだけで出生率が回復するとは限りません。

少子化の問題は、子どもが生まれた後だけではなく、もっと手前にあります。

結婚に踏み切れるか。
子どもを持とうと思えるか。
2人目、3人目を考えられるか。
将来に希望を持てるか。

そこに届かないまま、出生後の支援だけを厚くしても、出生率を大きく反転させるのは難しいのではないでしょうか。

そしてもう一つ、見逃せない問題があります。

仮に予算を増やすとして、その7.3兆円を本当に管理できているのか。

後編では、会計検査院の指摘などをもとに、
「巨額予算を扱う側の管理能力」
というもう一つのバグを見ていきます。


▼ 後編はこちら

7.3兆円を本当に管理できるのか。少子化対策のもう一つのバグ【後編】

▶ 番外編:少子化対策の本当の優先順位(お金の流れ)
https://bug-shittoke.com/extra/shoshika-kanemononagare/


参考資料

厚生労働省「人口動態統計」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html

厚生労働省「令和6年人口動態統計月報年計(概数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai24/index.html

厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況」PDF
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai24/dl/gaikyouR6.pdf

日本経済新聞「止まらぬ少子化、予算66兆円超 23年の出生率は過去最低|日経読者調査」
https://service.nikkei-r.co.jp/nikkei-id/column/20240605

こども家庭庁「令和7年度こども家庭庁予算案のポイント」PDF
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/88749a20-e454-4a5b-9da8-3a32e1788a23/5cbb6234/20241227_policies_budget_53.pdf

国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2024年版)」
https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2024.asp?chap=0

国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2024年版)」PDF
https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/jinkokenshiryo348.pdf

こども家庭庁「こども白書」
https://www.cfa.go.jp/resources/white-paper

こども家庭庁「令和6年版こども白書」
https://www.cfa.go.jp/resources/white-paper/r06

国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/doukou16_gaiyo.asp

国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査 結果の概要」PDF
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/JNFS16gaiyo.pdf

国立社会保障・人口問題研究所「現代日本の結婚と出産」PDF
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/JNFS16_ReportALL.pdf

内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書」
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/index.html

内閣府男女共同参画局「男女共同参画に関するデータ集」
https://www.gender.go.jp/research/weekly_data/database.html

厚生労働省「労働経済の分析」
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou.html

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