30年・66兆円で出生率1.15。少子化対策は「管理」できているのか【後編】

こども家庭庁の2025年度予算7.3兆円を本当に管理できるのかを示した少子化対策後編のアイキャッチ画像 番外編・考察

この記事でわかること

少子化対策の予算は、近年大幅に増えています。 令和7年度のこども家庭庁予算案は、約7.3兆円です。 一方で、令和6年の合計特殊出生率は1.15まで低下しています。

では、なぜ予算を増やしても、少子化は止まらないのでしょうか。

前編では、政策の射程が「結婚後・出産後の支援」に偏り、未婚化・所得不安・将来不安といった根本原因に届いていないのではないか、という点を整理しました。

後編では、もう一つの問題を見ます。 それが、予算の執行と管理です。

「誰かが悪い」という話ではありません。 問題は、巨額の税金を使う制度が複雑になりすぎ、現場も行政も管理しきれなくなっているのではないか、ということです。


7.3兆円。この予算を本当に管理できるのか

令和7年度、つまり2025年度のこども家庭庁の予算案は、約7.3兆円です。 前年度から大幅に増えています。

少子化対策を強化したい、という方向性は理解できます。 子育て支援が必要ない、という話ではありません。 むしろ、必要な支援は確実に現場へ届くべきです。

ただ、ここで一つ立ち止まって考えてみたいことがあります。

「予算を増やす前に、この巨額を管理できる仕組みはあるのか」

この問いを持つようになったのは、会計検査院の「令和6年度決算検査報告」を読んだことがきっかけでした。

予算を増やすこと自体は、政治的にはわかりやすい。 「これだけやっています」と説明しやすい。

しかし、本当に重要なのは、そのお金がどこに流れ、どのように使われ、どれだけ効果を出しているのかです。


現場に届くまでに、何が起きているのか

こども家庭庁予算が国から自治体や委託先を経て家庭や子どもの現場へ届くまでの流れと管理リスクを示した図

こども家庭庁の関連事業では、会計検査で不当事項が指摘されています。

その中には、委託事業における人件費の過大算定の事例が含まれています。 書類上は整っているのに、業務の実態と申請内容が一致しないケースが確認されているのです。

また、子どものための教育・保育給付交付金でも、経理上の不当事項が報告されています。

もちろん、これをすべて「悪意ある不正」と見るべきではありません。 現場のミス、制度理解の不足、事務処理の負担、確認体制の弱さなど、さまざまな要因が重なっている可能性があります。

ただ、報告書を読んでいると、単なる「現場のミス」だけでは片づけられない印象を受けます。

問題の背景には、2つの要因が重なっているように見えます。

・制度が複雑すぎる
・それを管理する仕組みが追いついていない

この2つです。


なぜ「制度の複雑さ」が問題になるのか

教育・保育給付の算定を例にとると、考慮すべき要素はかなり多くあります。

子どもの年齢。 地域区分。 保護者の就労状況。 保育標準時間か短時間か。 職員配置。 処遇改善加算。 各種加算。

これらが複雑に絡み合います。

さらに現場では、毎月のように状況が変わります。

・子どもの入退所 ・職員の入れ替わり ・シフトの変動 ・勤務実態の変化 ・施設ごとの事情

これを自治体や施設が毎月正確に処理し続けるのは、現実的にはかなり難しい。

制度が複雑になればなるほど、現場の事務負担は増えます。 確認する自治体側の負担も増えます。 そして、どこかでミスや不適切な処理が起きやすくなります。

その結果、後から会計検査で指摘される。 改善策が打ち出される。 また制度や確認項目が増える。 さらに現場が複雑になる。

この繰り返しになっていないでしょうか。


必要なのは「地味だけど本質的なこと」

予算を増やすだけでは、管理リスクも一緒に増えます。

本当に必要なのは、きれいなスローガンよりも、かなり地味な話です。

・正確に計算できる仕組み
・不正を防ぐ実効性のあるチェック機能
・自治体の負担を軽減する運用
・委託先の実態を確認できる体制
・政策効果を検証する仕組み

こうした部分が弱いまま予算だけを増やしても、支援が本当に必要なところへ届くとは限りません。

こども家庭庁もDX推進を掲げています。 ただし、これは「申請をオンラインにする」だけの話ではないはずです。

本当に必要なのは、不正を防ぎ、計算ミスを減らし、税金を守るためのインフラです。

制度を使う現場が迷わず処理できること。 自治体が確認しやすいこと。 後から検証できるデータが残ること。 そして、効果が出ていない政策を見直せること。

紙の業務日誌や自己申告、後追いの確認に大きく頼る運用のままでは、7.3兆円規模の予算を精密に管理するには限界があります。


「数字を積み上げれば進んでいる」という構造

ここには、もう少し広い問題があるように思います。

予算額は積み上がっている。 制度も増えている。 支援メニューも増えている。

でも、それが本当に現実を変えているのか。 その検証が後回しになっていないでしょうか。

数字は、政治的にはわかりやすい。 説明もしやすい。

でも、数字を積み上げることと、問題が解決に向かうことは同じではありません。

少子化対策に必要なのは、予算額の大きさだけではありません。

そのお金が、結婚できない不安、子どもを持てない不安、将来への不安に本当に届いているのか。 そして、その効果を検証できているのか。

ここを見ないまま予算だけを増やしても、「やっている感」だけが積み上がっていく危険があります。

▶ 関連記事:税金も、命も。「数を積み上げれば許される」という論理


「こども家庭庁が悪い」で終わらせてはいけない

ここまで読んで、「やっぱりこども家庭庁の問題だ」と感じた方もいるかもしれません。

ただ、私はそこまで単純に見ていません。

こども家庭庁の予算には、保育運営、児童手当、放課後児童クラブ、障害児支援、ひとり親支援など、現場で本当に必要とされている事業が多くあります。

支援を必要としている家庭があります。 現場で必死に働いている人たちがいます。 自治体で膨大な事務処理を抱えている人たちもいます。

だからこそ、ここを間違えると、必要な支援そのものへの攻撃になってしまいます。

本当に見るべきなのは、支援を受ける家庭でも、現場で働く人でもありません。 複雑な制度を作り、十分に検証しないまま積み上げていく構造です。

問題の本質は、仕組みのバグです。

特定の省庁だけの話ではなく、日本社会全体の構造的な課題として見る必要があります。


まとめ:30年・66兆円で出生率1.15が示すもの

前編・後編を通じて見えてきた問題は、大きく2つです。

① 政策の射程がズレている

支援が結婚・子育て中の世帯に偏り、未婚化・将来不安・所得格差といった根本的な原因に届いていない。

詳しくは前編の記事で整理しました。

② 執行・管理の仕組みが追いついていない

制度が複雑すぎて、正しく運用すること自体が困難な状態になっている。 そして、予算が増えれば増えるほど、管理の難しさも増していく。

もちろん、66兆円すべてが無駄だったという話ではありません。

保育、児童手当、ひとり親支援、障害児支援など、現場で必要とされてきた支出も多く含まれます。

問題は、それだけのお金を使ってなお、出生率低下という大きな流れを止められていない点です。

こどものためのお金だからこそ、甘く見てはいけない。 こどものためのお金だからこそ、厳しく検証する必要があります。

予算を増やす前に、確認すべきことがあります。

・本当に原因に届く政策になっているか ・現場が運用できるシンプルな制度か ・不正やミスを防ぐ管理体制は整っているか ・政策効果を検証する仕組みはあるか

66兆円という数字を見て、あなたはどう感じましたか。

感情ではなく、数字と構造から考えるところから始めてみませんか。

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あなたは、少子化対策に本当に必要なのは「予算の増額」だと思いますか。 それとも「制度の見直し」だと思いますか。

ぜひ、コメントで考えを聞かせてください。

▶ 番外編:少子化対策の本当の優先順位(お金の流れ)
https://bug-shittoke.com/extra/shoshika-kanemononagare/


参考資料

以下の公的資料をもとに、数字と制度の流れを確認しました。

会計検査院「令和6年度決算検査報告」 https://www.jbaudit.go.jp/report/new/index.html

こども家庭庁「令和7年度予算案のポイント」 https://www.cfa.go.jp/policies/budget/

厚生労働省「令和6年人口動態統計月報年計」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai24/dl/gaikyouR6.pdf

国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」 https://www.ipss.go.jp/

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